公開 2026年10月1日 更新 2026年9月27日 監修:眼科専門医(東京都内で白内障手術を執刀する現役眼科医)

糖尿病がある人の白内障手術|手術前の準備と術後に気をつけること

この記事の要点

糖尿病があると白内障は早く進む

糖尿病のある方は、同じ年齢の方と比べて白内障が早く発症し、進行も速くなります。血糖値が高い状態が続くと、水晶体の中で余分なブドウ糖がソルビトールに変わって蓄積し、タンパク質が変性して濁りが生じるためです。

見え方の特徴にも違いがあります。加齢による白内障は水晶体の中心(核)から硬く黄ばんでいくのに対し、糖尿病では水晶体の後ろ側の表面が濁る後嚢下白内障の割合が高くなります。後嚢下白内障は視線の通り道のすぐ近くが濁るため、濁りが小さいうちからまぶしさが強く出ます。視力が0.7〜0.8あっても日中の外出や運転がつらい、という訴えはこのタイプで多く見られます。

健診で血糖やHbA1cの指摘を受けたことがあるなら、眼科の初診時に必ず伝えてください。手術を検討する時期の考え方は白内障手術はいつ受けるべき?にまとめています。

手術前に確認する3つのこと

糖尿病のある方の術前検査では、通常の視力・眼圧・眼内レンズの度数計算に加えて、次の3点を確認します。

確認する項目見ているポイント結果によっては
血糖コントロール(HbA1c・血糖値)感染や創傷治癒への影響。直近数か月の推移も確認内科と連携して調整してから手術日を設定する
眼底(糖尿病網膜症の病期)網膜症の有無と程度、黄斑浮腫の有無レーザー治療や注射を先行させる
腎機能・全身状態透析の有無、心血管疾患、血圧のコントロール日帰りか入院か、麻酔や術中管理の方針を決める

HbA1cの目標値は年齢や合併症によって一人ひとり異なり、白内障手術に「この数値でなければ手術できない」という全国共通の基準はありません。目安としてHbA1c 7%台までコントロールされていれば予定手術に支障はなく、9%前後が続く場合は内科での調整を優先します。

白内障が進んで眼底が見えないと、網膜症がどこまで進んでいるかを判断できず、必要なレーザー治療も打てません。この場合は血糖が目標値に届く前でも、網膜を診るために手術を急ぐ判断をします。「血糖が下がるまで待つ」が常に正解ではない点が、糖尿病の白内障手術の難しいところです。

糖尿病網膜症があるときの手術の進め方

糖尿病網膜症は、高血糖で網膜の細い血管が傷み、出血やむくみ、やがて新生血管が生じる病気で、日本人の中途失明原因の上位を占めます(日本眼科学会「糖尿病網膜症」)。白内障手術が網膜症を悪化させることがあるため、病期に応じて進め方を変えます。

網膜症の病期白内障手術の考え方
網膜症なし通常どおり手術できる。術後も定期的な眼底検査を継続する
単純網膜症(初期)手術可能。術後に進行しないか、通常より短い間隔で眼底を確認する
増殖前網膜症必要な範囲にレーザー光凝固を行い、網膜を安定させてから手術する
増殖網膜症レーザー治療を十分に済ませてから手術する。硝子体出血や網膜剥離があれば硝子体手術と同時に行うこともある
糖尿病黄斑浮腫がある抗VEGF薬の硝子体内注射などで浮腫を軽くしてから手術する

網膜症の治療が先行する分、初診から手術までの期間は長くなります。レーザー治療は範囲を数回に分けて行うため、それだけで1〜2か月かかることがあります。手術全体の標準的な進み方は白内障手術の流れで確認できます。

一方で、白内障手術には網膜症の管理を助ける面もあります。濁りが取れれば眼底の観察や光干渉断層計(OCT)による黄斑の評価が正確にでき、必要な治療を適切な時期に行えます。

糖尿病の方に起こりやすい術後の問題

白内障手術は安全性の高い手術ですが、糖尿病があると頻度が上がる問題があります。合併症全般については白内障手術のリスクと合併症で解説しています。

こうした理由から、糖尿病のある方の術後通院は糖尿病のない方より長く設定されます。見た目の視力が出たあとも、黄斑や網膜症の経過を診るために通院を続けてください。術後の生活上の注意は白内障手術後の生活と注意点にまとめています。

眼内レンズは何を選ぶか

糖尿病のある方の眼内レンズ選びには、糖尿病のない方とは異なる判断基準が加わります。

第一に、網膜症がある目では多焦点眼内レンズを選びません。多焦点眼内レンズは光を遠方用と近方用に振り分ける構造で、そのぶんコントラスト感度が低下します。網膜の機能がすでに落ちている目では、この低下が見え方の不満として表れやすく、眼底も観察しにくくなります。網膜症がない方なら多焦点も選択肢に入りますが、将来網膜症が出る可能性を織り込んで判断します。レンズの違いは単焦点と多焦点眼内レンズの選び方で比較しています。

第二に、将来硝子体手術を受ける可能性を考えます。増殖網膜症が進むと硝子体手術でシリコーンオイルを目の中に入れることがあり、シリコーン素材の眼内レンズはオイルが付着して見え方が悪くなります。そのため網膜症のある方にはアクリル素材のレンズを選びます。

第三に、将来の眼底検査や網膜治療をしやすくするため、光学部が大きめのレンズを選びます。乱視がある場合のトーリックレンズは保険診療の範囲で選べ、網膜症があっても使えます(乱視がある人の白内障手術)。

手術当日の薬と食事

白内障手術は局所麻酔で行う10〜20分程度の手術で、長時間の絶食は必要ありません。そのため糖尿病の薬も多くの場合は普段どおり続けられます。ただし薬の種類と手術の時間帯で指示が変わるため、必ず事前に眼科と内科の両方に確認し、自己判断で中止も継続もしないでください。

日帰りか入院かは、糖尿病そのものより全身状態で決まります。血糖の変動が大きい方、透析を受けている方、一人暮らしで術後の点眼が難しい方は入院手術が向く場合があります。判断材料は白内障手術は日帰りと入院どちらがよい?にまとめています。

費用と施設選びで見るポイント

糖尿病があっても、単焦点眼内レンズを使う白内障手術(水晶体再建術)の費用は通常と同じ保険診療です。2026年時点の手術料は片眼12,100点で、手術当日の窓口負担は3割で約4.5万円、1割で約1.5万円が目安です(概算)。これに網膜症の治療が加わる場合は、レーザー光凝固や抗VEGF薬の注射の費用が別にかかります。抗VEGF薬の注射は薬剤費が高く3割負担で1回あたり数万円になるため、高額療養費制度の利用を前提に計画してください。費用の全体像は白内障手術の費用はいくら?で解説しています。

施設を選ぶときは、次の点を確認してください。

施設選びの一般的な基準はクリニックの選び方に、東京都内で白内障手術を行う施設はエリア別一覧にまとめています。糖尿病網膜症の診療方針は学会のガイドラインに沿って標準化されており、詳細は日本糖尿病眼学会「糖尿病網膜症診療ガイドライン(第1版)」で公開されています。

糖尿病があることは、白内障手術をあきらめる理由になりません。準備の手順と術後に診る項目が増えるだけで、内科の主治医と眼科医が情報を共有できていれば安全に受けられます。

この記事に関するよくある質問

Q. 血糖値が高いと白内障手術は受けられませんか?

極端に血糖が高い状態では、感染や創傷治癒の面からいったん延期して内科で調整します。一方で、白内障で眼底が見えないと網膜症の評価も治療もできないため、網膜症の進行が疑われる場合は血糖が完璧に整う前でも手術を優先することがあります。眼科と内科が相談して判断します。

Q. 糖尿病網膜症があっても多焦点眼内レンズを選べますか?

網膜症がある目では多焦点眼内レンズは推奨されません。多焦点は光を複数の焦点に振り分ける構造のためコントラスト感度が下がり、網膜の機能がすでに落ちている目では見え方の不満が出やすくなります。眼底の精密な観察や将来の網膜治療の妨げにもなるため、単焦点を選ぶのが基本です。

Q. 手術当日はインスリンや飲み薬をどうすればよいですか?

自己判断で中止も継続もせず、事前に眼科と内科の両方に確認してください。白内障手術は局所麻酔の短時間手術で食事制限も軽いため、内服やインスリンをほぼ通常どおり続けられることが多い一方、糖尿病の薬は種類ごとに扱いが異なります。手術が午前か午後かでも指示が変わります。

本記事は、東京都内で白内障手術を執刀する眼科専門医が内容を確認しています。記載している費用は2026年時点の診療報酬・一般的な相場にもとづく目安で、施設や条件により異なります。個別の治療方針は必ず担当医にご相談ください。